基盤課題
ものづくり現場で先端利用可能な小型高輝度中性子源システムの整備・高度化
日本の生産業、とくに国内経済を支えてきたものづくりは大きな転換期を迎えている。アジア諸国の台頭などを背景とした苛烈なコスト競争により、CO2問題の改善へつながる更なる高品質の追及と低コスト化という、相反する課題に直面している。特に鉄鋼を含む材料や自動車部品の軽量かつコンパクト化はグリーンを実現するために不可欠であり、大きな課題解決には全く新しい内部非破壊観察手法の導入が待たれている。「見えないモノは存在しないモノであり、開発や品質保証の対象にすらできない」ことは産業利用の現場では実感されている。
中性子線は高い透過力と優れた分析力を有する量子ビームであり、日本原子力機構東海研の研究炉JRR3やJ-PARCでの産業利用件数は増加を見せており、新たな非破壊観察、非破壊回折手法としてその有用性が広く認識され始めている。一方、これらの大型施設では利用機会が限られており、年数日の利用のみでは産業界のニーズに対応しきれていないことが大きな課題の一つとなっている。
本プログラムでは、「手元にある役立つ高輝度小型中性子源」の実現のため、小型中性子源の整備、中性子線の短パルス化、高輝度化、可視化ソフトウェアの開発により、利用者が簡便にボタン一つで結果を見ることができるシステムを構築する。すなわち、金属や軽元素の観察や解析に有効な中性子ビームを「手元で使える小型高輝度中性子源と利用者がボタン一つで結果を見ることができるような可視化ソフトウェアを含む高度な統合システムの開発」が目的であり、最終目標は「モノづくり現場での先端利用可能」な実用化へ向けたプロトタイプを完成させることである。
独立行政法人理化学研究所においては、これまでに陽子線加速器を用いた小型中性子源RANSを構築している。RANSの特徴は、ものづくりをはじめとする産業界での利用、また企業や大学への小型中性子源の普及を目標としている。「手元にある役立つ中性子源システム」として高度化、RANSの高度化には、中性子ビームの高輝度化、さらなる小型化、データ解析、画像解析ソフトウェアを包含したシステム全体としての安定性、安全性、低放射線レベル化があり、それぞれの要素技術の開発を目指す。
これらの整備・高度化によりものづくり現場で鉄鋼材料のナノ構造やバッテリー等の解析をJ-PARC等の大型施設と相補的に行うことが可能となり、自動車・航空機産業をはじめとした製造業で中性子を利用した製品開発が加速し、我が国における新産業創出の起爆剤となることが期待される。