光・量子融合連携研究開発プログラム
Photon and Quantum Basic Research Coordinated Development Program by MEXT

光・量子融合連携研究開発プログラム紹介

我が国では、電波に近いテラヘルツ光から可視光、X線にわたる広い波長領域の電 磁波である光を利用した「光科学技術」や、放射光、電子、ミュオン、中性子、イ オンなどのビームを利用する「量子ビーム技術」が、新しい原理・現象の解明にとどまらず、新素材の開発や品種改良、創薬などに活用されており、産業分野を高度化し、国際競争力を強化していくために非常に重要な基盤技術として、近年重要性 が益々高まっている状況にあります。

これらの光科学技術及び量子ビーム技術(以下、「光・量子ビーム技術」という。 )は、我が国の科学技術全体を支える基盤技術であり、先導的な技術開発や利用研究において、分野間融合を含めた様々な可能性へのチャレンジにより、境界領域を開拓していくことが期待されています。これまで光・量子ビーム技術の研究開発については、それぞれ個別に検討された推進方策に基づいて事業が実施されてきましたが、最近の技術や理論の進展によって、利用領域が重なりを持つようになってきており、研究開発を一体的に行うことで、先導的な研究から利用にわたる様々な分野での「課題解決」の可能性を持っています。

そこで文部科学省では、平成25年度より「光・量子融合連携研究開発プログラム 」を開始しました。本プログラムでは、光・量子ビーム技術の連携を促進し、我が 国の有する施設・設備を横断的に活用する先導的利用研究と、将来を俯瞰した基盤技術開発を推進することで、課題解決に向けた研究開発を強化し、開発の成果を社 会に還元するとともに、将来の利用研究の礎とすることを目指します。

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Welcome

  • PD/家 泰弘
    総括プログラムオフィサー (総括PO)
    家 泰弘 (いえ やすひろ)
    日本学術振興会・理事

     

    自然界は、電子、陽子、中性子、中間子、ニュートリノ、光子などの素粒子で構成されています。量子ビームとは、素粒子の集団を、エネルギーや運動方向をそろえて細い流れにしたものです。量子ビームは、さまざまな規模の加速器、原子炉施設、高出力レーザー装置などでつくられ、基礎物理学はもちろんのこと物質科学や生命科学の広範な分野において利用されています。本プログラムは、光・量子ビームのさらなる高度利用と新たな応用分野の開拓に向けた基盤技術開発を進め、科学技術創造立国を推進する我が国のキー・テクノロジーとして確立することを目的としています。より具体的には、我が国に整備されてきた量子ビーム関連の大型研究施設(Spring-8、SACLA、KEK-PF、J-PARC、JRR-3)や先進的なレーザーの新たな利用技術を開発することを通じて、科学技術基本計画において重要と位置付けられている「グリーン」や「ライフ」をはじめとする諸分野に新展開をもたらすことを目指します。

    本プログラムの名称「光・量子融合連携研究開発プログラム」のキーワードは「融合連携」です。これには二重の意味があります。ひとつは、異なる光・量子ビーム技術の融合連携です。レーザー、放射光、粒子ビームは従来、それぞれ独自の専門分野として発展してきましたが、近年たとえば自由電子レーザーに象徴されるように放射光とレーザーが相互乗り入れするような展開が見られるなど、分野間の重なりが大きくなってきています。結晶構造解析やイメージングにおいて、X線と中性子の併用によって軽元素も含めた総合的な情報を得る手法は以前から提唱されてきたところですが、大強度中性子ビームの実現によってそれが現実に実施可能な研究手法となりつつあります。このような展開を踏まえて、光・量子ビーム技術を総合的に俯瞰する視点が重要と考えています。

    融合連携」の第2の意味は人的な交流・連携です。光・量子ビームの革新的利用の開拓には、施設の建設・運営に当たるスタッフ、それらの高度利用を開拓するスーパーユーザー、様々な分野でそれらを活用するエンドユーザー、の緊密な連携が必要です。先進的な光・量子ビームを使ってどんな新しいことができるか、ユーザー・フレンドリーな実験プラットフォームとするために何が必要か、といった課題に、多様な専門性をもつ研究者たちが結集して取組み、その成果を産業界も含めて広く周知・普及させることを通じて、光・量子ビームの新時代を切り拓くことを本プログラムの全体目標として掲げたいと思います。そして、本プログラムの推進を通じて、次世代を担う多くの人材が育つことを期待しています。

    皆様のご理解とご支援をお願いします。

  • PO/井上 信
    プログラムオフィサー (PO)
    井上 信 (いのうえ まこと)
    京都大学・名誉教授

     

    「光子・粒子ビームのクロスオーバーへの期待」

    「レーザーや放射光など、高品質の光子ビームや電子、イオン、ミュオン、中性子などの粒子ビームが物質の基礎研究にとどまらず、新機能材料の開発や、医療など、様々な分野に広く利用されるようになっています。最近ではいくつかの量子ビーム(光子や粒子のビームを総称して応用分野で使われる言葉)を相補的にあるいは組み合わせて利用することで、さらに新しい研究の展開が期待されています。「光・量子融合連携研究開発プログラム」はこのような融合連携による新基盤技術の開発と利用研究を目指しています。

    基盤技術開発の面では、電子ビーム制御技術とレーザービーム蓄積技術を組み合わせたコンプトン後方散乱による小型で高品質なX線発生装置開発とそのイメージングへの応用、小型加速器中性子源の開発と元素分析面でX線とは相補的な中性子イメージングなどへの応用技術の開発、高調波レーザーの開発および超高輝度放射光技術の開発とこれらを組み合わせた極端紫外線から軟X線にわたる領域でのレーザーと放射光の連携の拠点作り、などの課題を掲げてプログラムを進めています。基盤技術課題と利用研究課題のプログラムを合わせて、量子ビーム技術の融合連携研究の進展とプラットフォーム形成が進むことを期待しています。

    皆様のこのプログラムに対するご理解とご支援並びにご助言をよろしくお願いします。

     

  • PO/森井 幸生
    プログラムオフィサー (PO)
    森井 幸生 (もりい ゆきお)
    (一財)放射線利用振興協会・参与

     

    「新しい機能性材料開発の道」

    私たちの生きている21世紀の社会は、科学技術の発展がもたらす知識を使って猛烈なスピードで進化しています。とりわけ、新しい機能を示す材料の開発が新しい製品の誕生と新しい文化の誕生に直接つながりますから、今世紀の進化のエンジン役を果たしています。超イオン伝導、超伝導、強磁性、超弾性、超塑性、光触媒エネルギー変換、などの新しい機能をマクロ的に示す材料物性は、ナノ、ミクロの世界で観る材料の構造と動きによってもたらされる場合が多く、この極微の世界を理解しそれらを制御して初めて新材料の開発が可能になってきます。

    極微の世界を理解するためには、特別の探査子"プローブ"が必要です。幸い我国には光プローブを供給する施設(レーザー施設など)と量子プローブを供給する施設(放射光施設、中性子ビーム施設、電子ビーム施設、イオンビーム施設、ミュオンビーム施設など)が整備されており、これらの施設とプローブ利用技術にはそれぞれの得意分野と共通分野がありますが、いずれも世界最高レベルの性能と質を誇っています。したがってこれらの施設を横断的に十分かつ迅速に利用することが、新しい原理・現象を理解し、それらを制御して新しい機能を示す材料を開発するためには必要です。

    このような努力を産学官が協力して強力にかつ迅速に行なうなら、学術的にも産業的にも国際的にリードする成果が出るものと期待できます。

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